【インタビュー】藤河次宏さん|拓新産業(株) 代表取締役

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今回のイクボスインタビューは、拓新産業株式会社 代表取締役の藤河次宏さんが登場。
ワーク・ライフ・バランスの実践企業として地元でも有名な同社。1977年に建設用機材のレンタル会社を設立し、20年以上前から週休2日、有休100%消化、ノー残業を実践してきた藤河さんに、これまでの道のりや想いなどを伺いました。

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<藤河次宏さんプロフィール>
福岡市出身。福岡の大学を卒業後、地元の建材商社に勤め、1977年に30歳で拓新産業株式会社を設立。妻、横浜で働く子どもがいる。ライフワークは山登り。

公私の区別がない会社で働き、30歳で起業

安藤:拓新産業さんは1977年創業で、現在80名ほどの従業員がいらっしゃいますね。創業前、藤河さんは何をされていたのでしょうか?

藤河:大学を卒業して、地元の建材商社に8年ほど勤め、30歳で脱サラして起業しました。

安藤:ご結婚やお子さんは?

藤河:30代前半で結婚しました。子どもは1人、今は横浜で働いています。

安藤:起業後に結婚されたのですね。会社勤めの頃は、どんな働き方を?

藤河:昔ですし、それも地元の建材商社なので、有休なんて言葉も知らないくらいで。ほとんど休みがなく、休日も上司の私的な用事で呼ばれるなど、公私の全くない会社でした。

安藤:ハードな働き方でも、こんなもんだろうと思われて。

藤河:当時は当たり前でしたね。

安藤:その反動で、ワーク・ライフ・バランスを重視する会社に?

藤河:それがひとつ。あとは、私は高校時代から登山部で、今でも山に登っています。登山をするには休みが必要ですし、自然には一番いい時期があるから、いつでも休めるようにしておきたい。自分が休みたいなら、そういう組織にしないと。

安藤:ご自分が休みたいからですか(笑)。

藤河:ええ(笑)。

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優秀な人材採用に向けて、職場環境を改善

安藤:創業時から「休める会社」を意識していたのですか?

藤河:基本的にはそう思っていましたが、創業時はもちろんそんな余裕がありません。直接のきっかけとなったのは、当社が25年ほど前に中途から新卒採用に切り替え、初めて合同説明会に参加したとき、私のテーブルには学生が誰も来なかったことです。屈辱を味わい、どうしたら若い学生が当社を選んでくれるかなと考え、まずは就業規則を改正して、きちんと守るところから始めることにしました。つまり職場環境の改善ですね。

安藤:なるほど。

藤河:まず唱えたのは、完全週休2日制、有給休暇の完全消化。それを3、4年かけて実践したので、20年以上前にはそうなっていたわけですね。

安藤:それ以前は?

藤河:脱サラだったので、知識も乏しくて。それが、合同説明会に参加したことで、50社くらいと当社と比較することになり、違いをはっきり自覚させられたわけです。学生から見向きもされない状況で、どうしたらいいかと考え、まず働きやすい職場環境を整えようと思ったのです。当時、大学などを訪問すると、辛いこともいろいろ言われましたよ。

安藤:例えば?

藤河:当社の住所は昔「大字」がついていた。今は町名変更でなくなりましたが。「大字がつくような田舎には、誰も来ませんよ」とかね。当時の大学は就職課から大手志向で、中小企業は相手にされませんでした。でも、職場環境を改善したら、驚くほどの学生がこんなところまで来てくれるようになったんですよ。

安藤:現在、会社説明会には200人以上来るそうですね。

藤河:ピークだった15年ほど前は、400人くらい。地元テレビ局のカメラが当社に1週間ほど入り、採用活動の様子をニュースで放映するほど、学生がたくさん来ました。

安藤:若者のニーズにマッチしたのでしょう。

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ゆとりある社員数とジョブローテーションがカギ

安藤:20年前に働き方を変えようとしたとき、社員の意見を聞きましたか?

藤河:いえいえ、聞いていません。休みが増えることに反発する人はいませんから。ただ、営業から「顧客満足はどうするんだ」とか、幹部から「若い人たちが有休を取ると、しわ寄せは我々に来るんじゃないか」とか、そういう話は出てきましたよ。

安藤:それにはどう答えられたのですか?

藤河:時間をかけて話し合いながら、方法を考えていきました。最初はなかなか進まなかったので、僕が「じゃあ、これまで通りのほうがいいのか?」と聞くと、みんな「休みが増えたほうがいい」と言う。それなら、たられば言わず、実現するためにどうしたらいいか、ひとつひとつ課題を出して、それをつぶしていきました。

顧客満足の部分は、最大にはできないけれど、最低でも何とか売上がつくようにバランスを取ろうと決めました。土曜は交替で数人出勤するようにスケジュールを組み、出たらその週の水曜は必ず休むことで完全週休2日制を維持するという解決策を話し合いました。

安藤:工夫ですね。話し合いには社長が入っていたのですか?

藤河:中小企業ですから、僕が関わらないとできない。そうする中で、2、3人しかできない業務があれば、数年かけてその業務ができる人を増やし、休むときに替われるようにした。業務を異動させ、複数の業務ができるようにしているので、育児休業や介護休業も問題がなく、休みが取れる社内の体制ができました。

安藤:ゆとりのある社員数もポイントですね。

藤河:それが基本です。特に育児休業は同時期に3人休むこともあるため、多少ゆとりを持たせています。それと、10数年前からノー残業にしているので、多少の不都合が起きても、若干残業をすればこなせるわけです。

安藤:なるほど。

藤河:この前、ある資料を作るために社員の労働時間などを出してみたら、時間外は平均して年間2時間ほどでした。

安藤:地方の中小企業では、残業しないと生活が成り立たないという人もいますが。

藤河:それは、残業があるという前提で給与体系を作っているから、改革するのが難しいわけです。初めから残業がなく、収入が決まっていれば、その中で生活できるのです。

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安藤:拓新産業さんは、基本給が高いのですか?

藤河:世間のモデル賃金をチェックして、世間と大きく変わらないようにしています。多くはないけど、少なくもないと思います。当社では数年おきに「社長質問会」というのがあり、社員が無記名で何でも書いていいようにしています。そこで昇給率や給与関係などについて出てきますよ。ただ、最近は昇給しない会社も多い中で、少ないながらもうちは毎年昇給しています。給与関係で絶対満足はないから、ある程度は我慢してもらわないといけない。そのかわり、夏冬の賞与以外に決算賞与もここ10年出しています。今年は最高益ですから、従来の倍くらいの決算賞与が出ます。

安藤:すごいな。業務を効率化して生産性を上げているから、出るわけですね。

藤河:そうです。社員数にゆとりがあるということは、確かに人件費は増えますが、それだけやることによって社員の労働の質が上がり、不満だらけの会社に比べて、生産性が上がる。だから当然それなりの利益が出ます。

コスト削減を継続するコツは担当制

藤河:社員は、会社がお願いするコスト削減に対しても、積極的に協力してくれます。諸々のコストを抑えれば、売上がのびなくても、ある程度、利益は確保できます。

安藤:なるほど。

藤河:私の交際費も含めて、全て女性社員が管理しています。3か月おきぐらいにチェックが入り、「社長そろそろ抑えてください」と言われるほど徹底してますから。

安藤:社長自ら作った仕組みですか?

藤河:はい、幹部にさせたら遠慮するのですが、そういう面では女子社員のほうがクールで、僕にでもパッと言ってきます。営業にも女性の補佐がいて、営業は自分勝手に仕入れ先に注文できない。補佐の女性にお伺いを立てて了解をもらわないと、発注できない。それぞれの経費に担当がいて、コストをいかに抑えるかという点はきちっとやっています。

家計と一緒で、収入が上がらないなら、締めるところは締めないといけない。それを継続させるためには、みんなでやろうではダメで、担当を決めておけば、きちんとしてくれます。ゴミの分別から窓の開け閉め、火の始末まで、担当がいます。月に1回、朝礼のときに現状を報告してもらい、繰り返し啓発します。「今はこうですから努力しましょうね」と若い人たちから言ってくれれば、問題ない。上がワーッとうるさく言えば、反発するかもしれないけど。だから、全部担当を決めてやっています。

安藤:その任せるというのは、社長の人材育成に関する考え方なのでしょうか?

藤河:任せないとできないでしょ。そんな細かいところまで社長はできませんし。私は企業の経営者として、全体を見て方向性を決めるのが役割で、それ以外は他の人たちが見るという役割分担をしているのです。

安藤:意識づけですね。

藤河:コスト削減は、やり続けるしかない。なかなか続かないものだけど、やり続けるような仕組みさえ作っておけばいいわけです。そして、もうひとつは、その結果を何らかの形で社員にフィードバックする。今年みんながこれだけ努力してくれたおかげで、これだけ削減できたとか利益が出たとか、報告することが大事ですよ。

安藤:おっしゃる通りですね。

イクボスインタビュー(藤河①).jpg
<西日本新聞 2006年11月14日>

有休の完全消化を社長自ら促し続けた

藤河:当社では、社内報を活用しています。有休の改正などについても、周知することが大切。そうすることで、会社への信頼が高まります。有休については、何日残っているかわかる一覧表があります。

安藤:有休ほぼ100%消化というのはすごいですね。

藤河:最初の頃は社員も疑心暗鬼で、ひょっとしたら昇給に影響するんじゃないかと思っていたかもしれません。だから初めの3年くらいは、3か月おきに有給消化率を出して、消化の悪い人は名前を読み上げて、消化してくださいと声をかけ続けました。3年後には総務から「社長、もう結構です。浸透してますから」と言われましたが、今でも総務は4か月毎に消化率を出し、掲示板に貼っています。

安藤:見える化することは大事ですね。子育て支援にも力を入れているそうですね。特徴的な制度はありますか?

藤河:特にはないのです、労基法を全て守ってるから、何の問題もない。育休も100%取得で、一番多い人は4回取りました。

安藤:半日有休があって、勤務時間は15分単位だそうですね。

藤河:子育て中の女性は午前中だけとか午後だけとか、取りやすいと思います。

安藤:お子さんの急な病気のときはどうですか?

藤河:たまたま斜め前が保育所なので、電話がかかればすぐに行ってます。

安藤:行くことに、他の社員から不満は?

藤河:言いませんよ、それは社員に周知していますから。当社の経営計画書にもワーク・ライフ・バランスや育児休業のことなどを書いて、みんなに渡しています。そこは徹底していますね。

安藤:男性の育休は?

藤河:まだいませんね。個別に呼んで、「とりあえず1週間でも10日でも取ってみたら」と話すのですが、給与が減るのでなかなか取れないようで。それに、当社の場合はいつでも有休が取れて、土日休みで残業もないので、取らなくてもいい環境なのかもしれません。

安藤:新卒採用だと、まだ社員の平均年齢が低いと思いますが、今後は介護のことも出てきますね。

藤河:そうですね。ただ、まだ相談もありません。育児休業のときは、制度ができる前から、相談があれば短時間勤務などをやっていました。中小企業ですから、介護についても細かい規定を作るより、相談があればできるだけ対応してあげたいと思っています。

理念が浸透すれば、社員は自分で判断できる

藤河:当社では、顧客満足は捨てています。

安藤:それは、すごい(笑)。顧客満足より、社員満足ということですね。

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藤河:顧客満足を考えていたら、やっていけない。捨てたというと語弊があるかもしれませんが、さっき話したように、最低のところで我慢してもらおうと。それは営業戦略にも反映しています。当社の営業戦略の基本は小口分散。小口分散で、1件1件付き合いはそんなに大きくない。そうすれば、断られても、また新しいところを取ってくればいい。うるさく言うような大企業などとは、最初から付き合わなくていいと話しています。また、当社は安全第一ですから、過積みを強要するようなお客様とも取引しません。1社で2割も3割もお付き合いするから、がんじがらめで言われる通りになるわけです。

安藤:子会社や下請けのようになり、従順にやってると、長時間労働になったりするわけですから。

藤河:ただ、営業は窓口ですから、お客様に対しては苦しいでしょう。競争社会の中で、「よそはいくらでも受け入れてくれるのに、拓新は…」と言われるかもしれません。でも、「それは当社の方針で、あなたたちが休めるのも、そういう会社の方針のためだから」と話しています。

安藤:営業マンをなぐさめたりするんですか?

藤河:いえいえ、愚痴を聞くようなことはしない。でも、具体的な課題になってくれば、調整会で話して考えます。たまにセンターを閉めたあと、お客様から会社や営業に電話がかかってきて、時間外なのに開けるように言われます。でも絶対に開けず、あとで営業と調整会を開きます。営業は「そこまでしなくてもいいじゃないか」と言うが、私からしたら「事前に少し遅れると電話があれば考えるけど、連絡もなしに来られたって、当社の考え方はこうですよ」と話します。つまり、経営理念は末端まで貫くものさしなんです。末端まで浸透していないと、社員はどう判断したらいいかわからない。会社の考え方が浸透することで、社員それぞれが判断できるわけです。

もうひとつ、有休が100%取れているということは、勤続年数が長い人や幹部ほど休んでいます。ということは、幹部や上司がいない状況で判断する場面が増えるので、自分である程度は判断できなければ、会社は成り立たない。

安藤:なるほど。

藤河:そういう意味で、当社の歴史の中で、社員はある程度は上司がいなくても仕事ができるという、労働の質は確保できているわけです。

徹底した1点主義で、一流の中小企業を目指す

安藤:社長も結構休むんですか?

藤河:私は休日に出たことがない。会社の鍵も持っていませんし、最初に帰ります。

安藤:それなら社員も帰りやすいですね。

藤河:それに、私はお客様とお付き合いがないから、もう20年くらいお客様のところにも行ったことがないし、電話がかかることもない。

安藤:お年始回りもない?タオルやカレンダーを配るとか。

藤河:しません。会社で年賀状も出しません。

安藤:それで、過去最高益を出すというのがすごいですね。

藤河:それだけコストを抑えられているんです。残業や休日出勤がないから、割増賃金が発生しない。

安藤:それで学生もたくさん来るから、採用コストもかからない。

藤河:はい、会社のホームページに説明会の日程を入れておけば、ある程度は来てくれますから。

安藤:一貫してますねー。

藤河:ただし、社員のためだけにやっているわけではないんですよ。当然、会社をよくして、利益を出して、山も行きたい。だから、そのためにはきちんとしようということで、別にきれいごとでやってるわけじゃない。それで実際にやってきたら、創業から38年、1度も赤字にならなかった。むしろどんどん利益が出てきているわけです。

安藤:社員が辞めないでしょうね。

藤河:そうなんですよ。当社の場合、成長をある程度抑えている。成長を優先すると、どうしても社員満足が落ちますから。成長を抑えるということは、売上はそんなに伸びないわけです。特に建設関連ですから、ここ20年くらいずーっと売上は下がっているわけです。今年は最高益でしたが、ピーク時に比べて売上は2割近く下がっています。それでもずっと利益が出ている。とすると、こういう経営をしているから、社員の質が上がっていると信じるしかない。証明はできないけれど、数字が出ているということは、いいのだと思っています。

安藤:成長を抑えようという考えに至ったいきさつは?

藤河:当社はバブルの終わりごろに創業して、それなりに伸びて、バブルがはじけると売上が下降してきた。それがひとつの契機です。これでは成長路線を掲げても、もう無理だなと。いつまでも対前年比何パーセントという考え方を捨て、売上が下がる中でどう経営するのかと考え、20年くらい前に成長路線は捨てました。

安藤:テリトリーを広げるという考えはありませんか?

藤河:広げると売上は伸びるけど、管理費がかかる。そのへんのバランスを考え、1点集中主義にしています。福岡市内だけで、商品構成も絞れば、大きな企業と対等に戦えるし、大企業に頼らなくてもやっていける。人の管理も楽で、コストを抑えられる。だから徹底した1点主義で、成長ではなく、一流の中小企業を目指してきました。

トップ自ら実践して周知することが重要

安藤:ちなみに、家庭ではどんな育児をされていましたか?

藤河:女房も山が好きなので、子どもが生後6か月後くらいから担いで山へ行きました。山とカブトムシ取りにはよく行きましたね。

安藤:今も夫婦で山登りをされるんですか?

藤河:はい、温泉をからめて女房と行くこともありますし、ひとりで行くことも。

安藤:ライフも充実してますねー。

藤河:そうですね。そんな仕組みづくりをして、実務から10年ほど離れているので、明日山に行きたいなと思えば、すぐ休めます(笑)。

安藤:なるほど(笑)。最後に、全国のボスへメッセージをお願いします。

藤河:社員は社長を見てますから、トップが自ら実践しなければ変わりません。特に中小企業は、トップが実践してきちんと周知するという考えを持たないと、いくら人事担当や社員だけにやらせても無理ですよ。私は自分で就業規則の本を買い、ワープロで就業規則を書き換え、社員にアピールするところはカラーにして、目次もつけて、労働基準監督署に持って行きました。そこから始まったんです。

安藤:やはり社長自らというのが大切ですね。

藤河:はい、社長か、社長のような権限を持った人が関わらないと、なかなか社員はついてきません。本気度を示さないと、絶対に動きませんよ。

安藤:何事もですね。

藤河:100%できなくても、有休消化率20%を30%にするとか、せめて前に進むような行動を示してほしいと思います。前提として、それなりの人員体制が必要です。口だけでなく、具体的な工程表やアクションプランを作り、本気で取り組みましょう。

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安藤:今日は貴重なお話をありがとうございました!

インタビュー:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン代表)
(筆:佐々木恵美)
2014年12月5日「イクボスロールモデルインタビュー」より転載)