

提 言 書
男性育休取得率50%の先へ
―“取れる社会”から“共に育てる社会”へ―
父親支援を通じた社会変革に向けた5つの提言
はじめに
2026年、男性の育児休業取得率が50%を超えました。父親が仕事だけでなく、「子どもを育てる」という責任を担うことは、もはや「特別」ではなく、日本社会の「当たり前」になりつつあります。
NPO法人ファザーリング・ジャパン(以下、FJ)は、2006年の設立以来、「笑っている父親になろう」を合言葉に活動してきました。原点は、絵本好きな父親たちによる小さな集まり「パパ's絵本プロジェクト」。当時の父親のあり方に危機感を抱いた創設者・安藤哲也がFJを立ち上げたとき、社会はまだ「子育ては母親がやるもの」でした。
FJ設立当時、男性の育休取得率は0.57%。2008年にも取得希望が30%あった一方、実際の取得率はわずか1.23%でした。FJはこのギャップを埋めるため、「さんきゅーパパプロジェクト」「イクボスプロジェクト」、政策提言などを通じ、父親・職場・社会の三方向から働きかけてきました。全国各地で活動が広がり、2018年には内閣総理大臣表彰を受けました。
制度も、パパ・ママ育休プラス、育児休業給付の引き上げ、産後パパ育休、出生後休業支援給付など、着実に前進してきました。制度と意識の変化が重なり、この20年で1%に満たなかった男性育休取得率は50%を超えました。
しかし、私たちはここをゴールとは考えていません。育休を「取れる」ようになった先で、父親は本当に笑えているのか。家族は共に育てられているのか。育児をする人も、職場で支える人も無理なく働けているのか。取得率が上がったからこそ、新たな課題も見えてきました。
FJが大切にしてきたのは、「理想的な父親」という正解を求めることではなく、「笑っている父親」を増やすことです。一緒に遊ぶ、一緒に食べる、寝かしつける。そんな何気ない日常の価値に気づくことが父親の笑顔を生み、その笑顔が家族、職場、地域、社会へ広がっていく。設立20年を迎えた今、私たちは改めてこのミッションを掲げます。
2026年、FJは理事体制を刷新し、「第二の創業期」を迎えました。8月3日の緊急フォーラムでは、研究者・実践者・当事者とともに「男性育休50%の先」を議論し、制度が前進したからこそ向き合うべき「3つの警鐘」と、変化を後押しする「2つの追い風」が見えてきました。
本提言では、FJの20年間の実践とフォーラムでの対話をもとに、「共に育てる社会」へ進むための5つの提言を、国・企業・地域/自治体・家族・個人に向けて示します。FJはこれからも、父親支援と「共育て」を下支えするパートナーとして、ともに社会を変えていきます。
50%の先に見えた課題――フォーラムからの3つの警鐘と2つの追い風
今回実施した緊急フォーラムから、3つの警鐘と2つの追い風として整理しました。
1 職場:長時間労働、業務の属人化が残存
職場の人材不足が深刻化している中で育休取得率、取得期間が伸びていることによる皺寄せも起きている。男性中心の長時間労働を前提とした働き方、業務の属人化が今なお残っており、育児期世代とそれ以外での分断も見られる。
2 家庭:男女共同参画はまだ道半ば
育休取得率、育休取得期間の性差は依然として大きく、また復職後は「男性はフルタイム・女性は短時間勤務」という分業に回帰してしまう。(厚労省共育プロジェクト調べ)取得率が50%を超えても、家庭内役割の偏りは解消されておらず、地方においてはさらに格差が大きい。
3 父親:笑えない父親の増加
育休がマジョリティーになった今だからこその、新しいしんどさがある。父親の孤立、両立不安、そして児童虐待の加害者に父親が占める件数の増加。「笑っている父親」を増やすミッションは、いま改めて問われている。
4 追い風その1:開示と人的資本経営
取得状況の開示は経営を動かす。新卒学生は就活で企業を比較する。開示義務は他の労働法制と同様、いずれ中小企業にも及ぶ。男性育休の推進は、長期的経営戦略そのものである。
5 追い風その2:父親の孤立の顕在化(成育基本法基本方針の策定)
成育基本法の基本方針(2021年閣議決定)には、「父親の産後うつ」と「父親の孤立」への対応が明記された。これを受けて国立成育医療研究センターは2025年、日本初の「自治体向け父親支援マニュアル」を公開し、既存の母子保健事業への父親支援の組み込みと、NPOとの協働を提示している。父親支援はもはや「あれば良いもの」ではなく、成育基本法に基づく自治体の責務である。
5つの提言――それぞれの場所で、共に育てる社会を
各提言に付した「FJ事業による下支え」は、提言を提言のままで終わらせないための、私たち自身の実行宣言、そして皆さまとの約束です。
提言1 国へー「取得率」から「共育て」へ、政策のギアを上げよ
【FJ事業による下支え】
父親の課題の調査・研究、政策提言の継続、ファザーリング全国フォーラム
提言2 企業へ―職場の脱ワンオペ(業務の属人化)、共育の推進
【FJ事業による下支え】
イクボスプロジェクト、企業版両親学級、企業版子育て支援、両立支援研修
提言3 地域・自治体へ――父親が孤立しない地域をつくる
【FJ事業による下支え】
父親支援士の創設、FJファミリー団体におけるパパサークル立ち上げ支援、ファザーリングスクール、ファザーリング全国フォーラム、父親が主役の子育て講座の企画運営
提言4 家族へ――お互いの希望を叶え合うチーム創りをサポート
【FJ事業による下支え】
共育推進事業(両親学級、未来予想図ワークショップ、両立支援研修、ファザーリングスクール等)
提言5 個人へ――父親であることを、人生の力に
【FJ事業による下支え】
人生100年時代の生き方モデル啓発、次世代育成・コヂカラ、ファザーリングスクール
むすび――FJの新たなビジョン
設立20年の節目に、FJはこれからの10年、20年を見据え、新たなビジョンを掲げました。
「日本中に“笑っている父親”があふれ、みんながそれを応援したくなっちゃう社会」
私たちが描くのは、父親も母親も、子どもたちと過ごす時間を大切にでき、家族が笑顔で日常を過ごせる社会です。長時間労働に追われ、わずかな家族との時間のために毎日走り続けるのではなく、働くことも、育てることも、人生を楽しむことも大切にできる。それを見た周りの人たちがなんだか一緒に笑顔になって思わず応援したくなっちゃう。そんな社会をつくりたいと考えています。
けれど、その社会の中にも、笑えない父親はいるかもしれません。仕事と育児の両立、子どもとの向き合い方、夫婦関係、転勤、日々の家事・育児――父親が抱える悩みはさまざまです。大切なのは、そんなとき、隣に話を聞いてくれる誰かがいることです。
「一人で頑張らなくてもいい」「一緒に考えよう」と言える人がいる。FJは、父親や家族に寄り添い、ともに考え、社会の仕組みそのものを変えていく伴走者でありたいと思います。そして、その役割を担うのはFJだけではありません。地域の子育て支援者、企業、自治体、国、そして家族や身近な人たちも、その輪の一員です。
良い父親ではなく、笑っている父親を。父親の育児参画から、父親支援を通じた社会変革へ。
このビジョンは、FJだけでは実現できません。国・企業・地域・自治体・家族・個人、それぞれの場所から力を持ち寄り、「共に育てる社会」を一緒につくっていきましょう。

父親の育児参画が社会のスタンダードに変化していく中、ファザーリング・ジャパン(FJ)は
「日本中に“笑っている父親”があふれ、みんながそれを応援したくなっちゃう社会」の実現を目指し、
全国で6つの事業と17のプロジェクトを展開しています。
【6つの事業領域】
FJは、家族・地域・企業・行政が協働して子育てを支える「共育社会」の実現に向け、全国で様々なプロジェクトを行っています。
1|父親支援 自治体・企業で講座や相談事業を展開
• ファザーリング・スクール 企業・自治体向け父親セミナー
• カイザーパパプロジェクト 帝王切開の情報をプレパパへ発信
• さんきゅーパパプロジェクト 男性育休促進・企業版両親学級
• メインマン・プロジェクト 発達障がい児の父親支援
• Stand by Me プロジェクト 思春期の子を持つパパの交流
2|父親の両立支援 家事育児の実践力と職場風土の改善
• トモイク推進事業 職場と家庭の “ワンオペ”解消の啓発・研修
• イクボスプロジェクト 経営層・管理職向け改革研修
• トモショクプロジェクト 家族と楽しむパパの料理教室
3|父親支援士(新規) 父親支援を担う人材を全国で育成
• 父親支援士 人材育成の新規事業
4|父親の生き方モデル 多様な父親のロールモデルを広げる
• 秘密結社・主夫の友 主夫コミュニティの運営
• 父親の学校参画プロジェクト PTA・おやじの会の情報交換
• サステナパパ 持続可能な社会を目指す父親の自主活動に関する情報発信
5|父親目線のこども真ん中社会 子どもを支える仕組みを社会に広げる
• 次世代パパママプロジェクト 学生向けライフキャリア教育
• コヂカラ・プロジェクト 他団体と連携した子どもの力の活用
6|父親の課題調査・研究・企画 多角的に社会全体の意識変革を促進
• パパパンプアップ 企業・自治体とのコラボ企画
• ファザーリング全国フォーラム 全国自治体と連携して毎年開催
• 調査・研究 父親の課題に関する調査事業





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